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【写眼】北野謙「溶游する都市/Flow and Fusion」(1990年)(産経新聞)

 ■うごめく群衆「溶かす」

 野球のデーゲームが終わり、東京ドームから大勢の観客が流れ出ていく。辛うじて、柱の周囲には人影が残る。しかし外側に向かうにつれ、人々は霧や煙のように拡散して、全くつかみどころがなくなってしまう。

 「輪郭を溶かしたかったんです。人間の輪郭をどろどろに」

 後に「失われた10年」と呼ばれる1990年代の始まりとともに写真家として出発した北野謙(41)は、20代だった当時の衝動をそう振り返る。

 人込みに出向いては三脚を立て、数秒から数十秒のスローシャッターでうごめく群衆を「溶かし」続けた。バブル崩壊や阪神大震災、地下鉄サリン事件…大勢の人を巻き込む出来事が起きながら、どこか現実でない感覚があった。「自分にも世界にも確かな感触を持てなかった」

 暗室でフィルムを現像していると、銀の粒子と、粒になった人々の見分けがつかない不思議な感覚にとらわれたという。わき上がってきたのは、意外にも負の感情ではなかった。

 「粒として、この中のどこかに自分もいると思ったんです。淡くて不安定だけれど、だからこそ確かに存在していると」

 近年は、さまざまな場所の1日を長時間露光で凝縮させた風景写真や、人々の複数の肖像を1枚の印画紙に焼き付けていく独自のポートレートシリーズに取り組んでいる。

 「写真には、撮った後にも発見がある。それが自分を導いてくれたりもする」(三品貴志)

                   ◇

 ■北野謙個展「溶游する都市/Flow and Fusion」

 21日まで、東京都千代田区三崎町のUPフィールドギャラリー(TEL03・3265・0320)で。1990年代の東京の路上をスローシャッターで撮影した作品13点を展示。会期中無休。入場無料。同名の写真集も発売中。

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